パニック障害の原因【複合的な要因を学び対処に役立てる】

もくじ

はじめに

パニック障害の発症の原因については、未だ十分に解明されていません。

しかし、パニック障害の原因は一つではなく、身体的要因、心理的要因、環境的要因という3つの要素が関与しており、これらの要素が個々に影響を及ぼすだけでなく、それぞれが相互に影響し合って発症するものと考えられています。

本記事では、これらの要因を理解し、パニック障害の治療に役立てるための情報を提供します。

「身体的要因」

身体的要因には、脳や自律神経、免疫系の働き、遺伝など身体的な側面に関連しています。これらの要因が、個人の体質や神経系に影響を与えることで、パニック障害の発症に関与することがあります。

特に、脳の神経伝達物質のバランスの乱れがパニック障害の発症に影響を与えることが研究で明らかになっています。

投薬治療では、脳の神経伝達物質のバランスを整えるために、抗うつ薬や抗不安薬が用いられます。

脳の働き

パニック障害の発症には、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、GABAなど)のバランスが関係していることが医学的研究により示唆されています。神経伝達物質は、脳内の神経細胞同士の情報伝達に関与しており、そのバランスが崩れることで不安感情が過剰になりやすくなります。

また、脳の扁桃体という部分が、恐怖や不安感情の処理に関与しており、ここが過敏になることもパニック障害の発症に寄与しているとされています。

投薬治療に用いられる抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の再取り込みを阻害し、神経伝達物質の濃度のバランスを整えます。これにより、不安や恐怖を緩和する効果があります。一方、抗不安薬は、神経伝達物質の受容体に作用し、不安や緊張を軽減する効果があります。

自律神経

自律神経は、心臓や消化器官、血管などの働きを自動的に調整する神経で、交感神経と副交感神経の2つの系統から成り立っています。パニック障害の患者さんでは、この自律神経のバランスが崩れることが関係しているとされています。

特に、交感神経が過剰に働くことで、心拍数の増加や息切れ、冷や汗などの症状が引き起こし、パニック発作に繋がることがあります。

適度な運動、良質な睡眠、栄養バランスの良い食事、深呼吸法や瞑想を実践することで、自律神経のバランスが整い、パニック発作の要因を軽減できます。また、これらの方法は継続して行うことで効果的です。

免疫系

免疫系もパニック障害の原因として関与している可能性があります。ストレスや病気などが原因で免疫系が過敏になると、炎症反応が引き起こされることがあります。この炎症反応が脳内の神経伝達物質のバランスを崩し、不安感情が過剰になることが考えられています。

免疫系の炎症は、ストレスや不安が長期化すると、身体が炎症反応を引き起こすことがあります。パニック障害の患者さんは発症前にプライベートや仕事で大きなストレスや不安を長期間に渡って感じていることが多いです。

適度な運動、良質な睡眠、ストレス緩和(リラクゼーションや息抜き)を実践することで、免疫系の炎症を抑制し、パニック発作のリスクを軽減することができます。

遺伝

医学的研究によれば、パニック障害の患者さんの親族にも同じ症状を持つ人が多く見られることが分かっています。ただし、パニック障害を起こしやすいとされる遺伝子情報までは未だ特定されていません。

パニック障害は遺伝だけが原因ではなく、環境やストレスなどの要因と組み合わさることで、パニック障害が発症することが一般的です。

カフェインやアルコールの摂取

コーヒーや紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは神経興奮作用があり、過剰摂取するとパニック発作を引き起こすことがあります。また、アルコールの摂取や依存も、パニック障害の発症や症状の悪化に影響を与えることがあります。

パニック障害の治療においては、カフェインやアルコールを含む飲料や食品の摂取に注意することが重要です。コーヒーをよく飲まれる方は、デカフェコーヒーに切り替えるなどしてみましょう。

「心理的要因 」

心理的要因には、不安感情や過去の経験、トラウマやストレス、自己評価の低さ、過度の自己観察など心理的な側面に関連したものです。これらの要因が、感情のコントロールやストレス対処能力に影響を与えることで、パニック障害の症状を引き起こすことがあります。

パニック障害の治療においては、過去のパニック発作の経験が、新たな発作を恐れる感情を生み出し、さらなる発作を誘発しないように、負のスパイラルを断つことが重要になります。

認知行動療法や心理療法が、これら心理的要因に対処するための治療法として有効であることが示されています。

不安感情

過度の不安感情がパニック障害の症状を引き起こすことがあります。例えば、過剰な心配や恐れが、パニック発作を誘発する可能性があります。

認知行動療法においては現実的なリスク評価や心配事に対処する技術を学び、過剰な不安感を緩和します。

悪い思考パターン

過度の心配や悲観的な考え方、自己否定的な思考パターンは、不安症状を引き起こすことがあります。これらの思考パターンはパニック障害の症状を悪化させる可能性があります。

認知行動療法は、悪い思考パターンを特定し、それらをより現実的で適切な思考に置き換える方法を学びます。このプロセスを通じて、不安症状の悪化を防ぎます。

過去の経験やトラウマ

過去の経験やトラウマが心理的なストレスとなり、パニック障害を引き起こすことがあります。特に、幼少期のトラウマや、過去にパニック発作を経験したことがある場合、再び発作が起こることを恐れる心理的な要因が働くことがあります。

心理療法(特にトラウマに焦点を当てた治療法)は、過去の経験やトラウマと向き合い、それらが現在のパニック障害の症状に与える影響を理解し、克服する手助けをします。

コントロールの欠如感

自分の感情や状況をコントロールできないと感じることが、パニック障害の発症につながることがあります。コントロールの欠如感は、不安を増幅させ、パニック発作を引き起こす可能性があります。

認知行動療法や心理療法は、自分の認知や思考をコントロールする力を高める方法を提供します。それにより、コントロールの欠如感が緩和され、不安やパニック発作が軽減されます。

防御機制

心理的な防御機制が働くことで、パニック障害の症状が現れることがあります。例えば、無意識に抑圧された感情やストレスが、パニック発作という形で表れることがあります。

心理療法は、無意識の防御機制にアプローチし、抑圧された感情やストレスを明らかにして処理する方法を学びます。これにより、パニック障害の症状が改善されることがあります。

自己評価や自己効力感

自分に対する評価が低い、または自分が状況を乗り越えることができないと感じることが、パニック障害の発症に影響を与えることがあります。

自己効力感が低いと、ストレスに対処する力が弱まり、パニック発作を引き起こす可能性が高まります。また、過剰な自己意識や自己評価の厳しさは、同じく症状の悪化につながることがあります。

認知行動療法や心理療法は、自己評価を向上させ、自己効力感を高める方法を提供します。これにより、ストレスへの対処力が向上し、パニック発作のリスクが減少します。

コーピングスキルの不足

ストレスや不安に対処する方法を心理学的専門用語でコーピングというのですが、このコーピングが不十分であると、パニック障害の症状が悪化することがあります。

認知行動療法では、ストレスや不安に対処するための効果的なコーピングスキルを習得します。これにより、ストレスや不安に過度に反応すること無く、より健康的な生活を送ることができます。

「環境的要因」

環境的要因には、ストレスの多い状況や人間関係の問題、仕事や学業のプレッシャーなど、個人の周囲の状況など環境的な側面のことをいいます。これらの要因が、心身の状態に影響を与えることで、これらの要因がパニック発作を引き起こすきっかけになることがあります。

ストレス管理やリラクゼーション法、時間管理のスキルの向上が、環境的要因に対処するために役立ちます。

生活環境の変化

大きな生活環境の変化も、パニック障害の発症に影響を与えることがあります。引っ越し、転職、結婚、出産、離婚など、人生の転換期に発症することがあるためです。

この変化に対処するためには、ストレス管理技術やリラクセーション法を学ぶことが役立ちます。また、新しい環境に適応するために、焦らずに自分に十分な時間を与えることが重要です。

社会的な孤立

人間関係やコミュニケーションが不十分である場合、社会的な孤立感が生じ、パニック障害の発症に影響を与えることがあります。人間関係のサポートが不足していると、ストレスが溜まりやすくなります。

自ら誰かに助けを求めることも、社会的孤立を克服する重要な方法の一つです。友達、家族、同僚、医者や心理専門家など、信頼できる人に自分の気持ちや悩みを打ち明けることで、サポートを受けられる可能性が高まります。

また、自分の状況を共有することで、他の人からも理解や共感を得やすくなります。助けを求めることは、孤立感を軽減し、パニック障害の症状の改善に繋がることがあります。この方法は、人間関係を築くスキルを向上させるだけでなく、自分自身をサポートする力を高めることにも繋がります。

不規則な生活習慣

不規則な生活習慣や、睡眠不足、過労、栄養不良などが、パニック障害の発症に影響を与えることがあります。身体的な健康が低下すると、精神的な健康も悪影響を受ける可能性があります。

不規則な生活習慣を改善するためには、規則正しい生活リズムを取り入れることが役立ちます。睡眠、食事、運動など、日常生活の健康的なバランスを保つことで、身体的および精神的な健康が向上し、パニック障害の症状が軽減されます。これは、生活の質を向上させ、ストレスや疲労に対処する力を強化することに繋がります。

原因は複数の要因が絡み合っている

身体的要因、心理的要因、環境的要因、それぞれの要因が相互に影響し合い、個々の状況や体質によってパニック発作などの症状が現れることがあります。以下に、これらの要因がどのように関連しているかについて説明します。

身体的要因と心理的要因

身体的要因(脳の働きなど)と心理的要因(不安感情や過去の経験など)が関連して、パニック障害の症状が発症することがあります。例えば、遺伝的な要素によって不安感情が強くなりやすい体質である場合、心理的ストレスがかかるとパニック障害の症状が引き起こされることがあります。

身体的要因と環境的要因

身体的要因(脳の働きなど)と環境的要因(環境や人間関係など)も相互に影響し合います。例えば、職場環境やプライベートでの人間関係により過度のストレスが長期間続くことで、自律神経や免疫系の働きに悪影響を与え、パニック障害の症状が引き起こされることがあります。

心理的要因と環境的要因

心理的要因(不安感情や過去の経験など)と環境的要因(環境や人間関係など)も関連しています。過去の経験やトラウマによって不安感情が強まり、新たな環境的ストレスが加わることで、パニック障害の症状が発症することがあります。

パニック障害は単一の要因で発症することは稀です。様々な要因が複雑に絡み合ってパニック障害が引き起こされることを理解することは、適切な治療方法を見つける上で重要です。適切な治療とサポートにより、パニック障害は改善することが可能です。

最後に

パニック障害の患者さんの中には「私のこころが弱いから発症したのでは?」と思う方がいらっしゃいます。

しかし、パニック障害は心が弱い人だけがなるものではありません。実際には、上述した通り、身体的要因、心理的要因、環境的要因が複雑に絡み合って発症します。

心が弱いというレッテルを貼ることは、パニック障害の理解や治療に役立たないばかりか、かえって患者さんの自己評価を下げ、回復への道を遠ざけることがあります。

重要なのは、パニック障害は誰にでも発症する可能性があることを理解し、適切な治療やサポートを受けることです。治療を受けることで、パニック障害の症状は改善されることが多く、より健康的で充実した人生を送ることができます。

あなたは一人ではありません。この病気と一緒に向き合い、乗り越えていきましょう。

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この記事を書いた人

Relact編集長:大野(おおの)
大学では臨床心理学を専攻し、不安症について研究を行なう。

「Relact(リラクト)」はパニック障害や不安を抱える人々に対し、ITを活用したサポートを行うことを目的としたプロジェクトです。

私たちが目指すのは、正しい情報提供とサポートを通じて、全ての患者さんが自由で安心な日常を取り戻せるようになることです。

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