パニック障害の特徴
パニック障害は、他の精神疾患や身体疾患と似た症状が現れることがあります。正確な診断を受けるために、他の疾患との違いを理解することも重要となります。まずは、パニック障害の特徴について確認を行っていきましょう。
パニック障害の特徴と他の疾患との違い
突然のパニック発作
パニック障害では、予期せず突然発生する強い不安や恐怖感が中心的な症状(いわゆるパニック発作)が特徴的です。一方、他の不安症には、このような突発的な発作はあまり見られません。
身体的症状
パニック発作では、身体的症状が強調されます。これには、心拍数の増加、動悸、息切れ、めまい、ふるえなどが含まれます。他の不安症では、これらの症状よりも軽度または不明瞭であることが多いです。
症状の原因
パニック障害の場合、パニック発作を予測することができないため、特定の原因を特定するのが困難な場合があります。一方、他の不安症の場合、恐怖や不安が特定のトリガー(高所、対人など)に関連していることがよくあります。
発作後の恐怖回避
パニック障害では、パニック発作が起こると「次の発作がいつ起こるか」に対する恐怖感や回避行動が現れることがあります。パニック障害は特定の状況や場所よりも、パニック発作そのものに対する不安や恐怖感が強いのが特徴です。
症状の継続時間
パニック障害では、パニック発作の症状は一般的に10分から30分程度持続しますが、持続時間がこれよりも長い場合は他の疾患の可能性もあります。
パニック障害と間違われやすい疾患
医療機関で適切な診断を受けることが、パニック障害と他の疾患との違いを明確にし、適切な治療法を選択するためには重要です。専門家は、症状や経験を詳細に聞いた上で、最も適切な診断と治療法を提案してくれます。
各疾患とパニック障害との相違点
病気の名称 | 概要 | パニック障害との相違点 |
全般性不安障害 | 長期的な不安、心配、緊張状態が続く疾患。 | 慢性的に不安がある点が特徴。不安の対象が広範。 |
社会不安障害 | 人前で話す、人と接することに強い不安感を抱く疾患。 | 社交的状況での不安感が特徴。 |
特定の恐怖症 | 特定の物や状況に強い恐怖感を抱く疾患。 | 特定の物や状況に対する強い恐怖感が特徴。 |
分離不安障害 | 家族や親しい人から離れることに強い不安感を抱く疾患。 | 家族や親しい人から離れることに対する強い不安感が特徴。 |
外傷後ストレス障害 | 過去に経験したトラウマが原因で、現在でもそのトラウマからの影響が続く疾患。 | 過去のトラウマによるストレスが原因である点が特徴。 |
甲状腺機能亢進症 | 甲状腺が過剰にホルモンを分泌することで引き起こされる身体の疾患。 | 甲状腺の異常なホルモン分泌が原因。 |
機能性低血糖症 | 血糖値が急激に下がることで、めまい、動悸、不安感などを引き起こす疾患。 | 血糖値の変動による身体的な問題が原因。 |
カフェインの過剰摂取 | カフェインの摂取量が多すぎると、神経興奮作用により不安感や動悸、手の震え、頭痛などを引き起こす疾患。 | カフェインの摂取量による身体的な問題が原因。 |
鉄欠乏症 | 鉄の不足が慢性化すると、鉄欠乏性貧血という状態になり、集中力の低下や不安感、気分の落ち込みなどの精神的な症状が現れる。 | 鉄分の不足による身体的な問題が特徴。 |
ビタミンB12欠乏症 | ビタミンB12の不足により、神経細胞の障害が引き起こされ、めまい、手足のしびれ、不安感などが現れる病気。 | ビタミンB12の不足による身体的な問題が特徴。 |
全般性不安障害 (GAD)
全般性不安障害(GAD)は様々な日常生活に対して過度な不安や心配が起こり、その過度な不安が一定期間(6ヶ月以上)持続する疾患で、特定の状況や場所に限定されず、持続的な不安や心配が特徴です。
このようにパニック障害とは過度な不安感がある点では類似していますが、GADは慢性的な不安が特徴です。ただし、パニック障害の方は、パニック発作に対する不安感が主になりますが、GADは、日常生活の様々な側面(健康、仕事、家族など)について広範に不安・心配をします。
そして、パニック障害の方は、発作を引き起こす可能性がある状況や場所を避けることがよくあります。これに対して、GADの方は特定の場所や状況を避けるというよりも、様々な心配事から逃避する行動が見られることがあります。
社会不安障害 (SAD)
社会不安障害(SAD)は、社会的な状況において過度な不安や恐れを感じ、特に他人との交流や評価を恐れ、他人との対人関係やパフォーマンスに影響が出ることが特徴です。SADは、公共の場や人前での演説、食事、会話など、社会的な状況が引き起こす不安や恐怖に悩まされます。これにより、患者は社会的な状況を避けたり、極度のストレスを感じたりします。
パニック障害と同様に、社会不安障害も過度な不安や恐れが主な症状です。このように不安感がある点では類似していますが、SADは社会的な状況に限定された不安が特徴です。つまりパニック障害は、パニック発作への不安が中心ですが、SADは特定の社会的状況やパフォーマンスに対する不安が中心ということです。
SADは、不安を感じる社会的状況を積極的に避ける傾向があります。パニック障害の場合、特定の状況や場所を避けることがありますが、その範囲はSADよりも広範では無い場合が多いです。
特定の恐怖症
特定の恐怖症は、特定の物体や状況に対する過度な、または合理的でない恐怖が生じることが特徴です。患者は恐怖の対象を避ける傾向があり、日常生活に支障を来すことがあります。高所、閉所、動物、乗り物など、特定の物体や状況に対する強烈な恐怖が見られます。これらの恐怖は、通常は危害を及ぼさないものであっても、患者に強い不安を引き起こします。
パニック障害と特定の恐怖症の患者は、恐怖を感じる状況や物体を避けることが一般的です。両疾患ともに、恐怖の対象に直面した際には、心拍数の増加、発汗、震えなどの身体的症状が現れます。
しかし、特定の恐怖症は明確で特定の恐怖の対象が存在します。そして、パニック障害の影響は、日常生活の多くの側面にわたることがあります。一方、特定の恐怖症は、特定の状況や物体に限定されることが一般的です。
分離不安障害
分離不安障害は、主に子どもに見られる精神障害で、安全と感じる人物からの分離や喪失への過度な恐れと不安を特徴とします。しかし、成人でも発症することがあります。分離不安障害の患者は、愛着対象(主に親や家族、恋人、自分を守ってくれる存在)からの分離に強い不安を感じます。
パニック障害と同様に、分離不安障害も不安や恐れが主な症状ですが、パニック障害は、パニック発作の恐怖が中心ですが、分離不安障害は愛着対象からの分離に対する恐れが中心です。また、分離不安障害は、主に子どもに診断されることが一般的ですが、パニック障害は主に成人に診断されます。
外傷後ストレス障害 (PTSD)
外傷後ストレス障害(PTSD)は、過去のトラウマを何度も再体験するフラッシュバック、悪夢、極端な反応、トラウマを思い出すものや状況を避ける傾向、持続的な過度な警戒や不安などの症状が見られます。
不安感や恐怖感がある点では類似していますが、PTSDは過去のトラウマ体験に関連した恐怖が特徴です。PTSDの患者は、トラウマを思い出すような状況や刺激を避ける傾向があります。パニック障害の患者も特定の場所や状況を避けることがありますが、その背景はPTSDとは異なります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンの過剰分泌が原因の疾患で、心拍数の増加、体重減少、発汗、過敏さ、疲れやすさ、不眠、手の震えなどの症状が現れます。甲状腺機能亢進症は血液検査によって診断が確定します。
心拍数の増加、息切れ、動悸、過敏さ・不安などの症状が類似していますが、甲状腺機能亢進症は内分泌の異常が原因であり、パニック障害とは原因が異なります。
機能性低血糖症
機能性低血糖症は、食後数時間で急に疲れたり、頭痛、動悸、発汗、震え、不安感、めまいなどの症状が現れることが特徴です。これは、急激な血糖の変動やインスリンの過剰な分泌などに関連していると考えられますが、正確な原因はまだ完全には解明されていません。
機能性低血糖症の症状の中には、不安感や過度の神経質など、精神的な症状も含まれており、これはパニック障害の主な症状と一部類似しています。
パニック障害は特定の原因やトリガーが必ずしも明確でない場合が多いのに対し、機能性低血糖症は食後や空腹時など特定の状況で症状が出現することが一般的です。このように機能性低血糖症は血糖値の低下が原因であり、パニック障害とは原因が異なります。
カフェインの過剰摂取
カフェインを大量に摂取すると、中枢神経系の興奮作用により動悸、息切れ、緊張感、不安感などの症状が現れることがあります。これはパニック障害の主な症状と一部類似しています。
パニック障害の症状は、特定のトリガーがなく突然現れることが一般的です。一方、カフェインの過剰摂取による症状は、大量のカフェインを摂取した後に現れます。このようにカフェインの過剰摂取が原因であり、パニック障害とは原因が異なります。
このようにカフェインは中枢神経系を刺激し、不安感を増加させる可能性があります。そのため、パニック障害の患者さんは治療中はカフェインの摂取を控えるか、少なくすることで、パニック発作のリスクを減少させることが期待されます。
鉄欠乏症
鉄は、赤血球を形成するために必要なヘモグロビンの成分です。鉄が欠乏している状態が進行すると、鉄欠乏性貧血という状態になることがあり、集中力の低下や不安感、気分の落ち込みなどの精神的な症状が現れることがあり、これはパニック障害の症状とも一部重なります。鉄欠乏症は血液検査で診断され、鉄剤の補給や原因となる疾患の治療が行われます。
パニック障害は精神的な要因や不明な原因に起因することが多いのに対し、鉄欠乏症は食事の偏り、出血、妊娠などの身体的な原因により発症します。
なお、鉄はノルアドレナリンやドーパミンなどの脳内神経伝達物質を造る原料としても必要なため、鉄分不足が続くとメンタル悪化に影響を与え、産後うつも鉄分不足が原因の1つだという研究報告もあります。
ビタミンB12欠乏症
ビタミンB12欠乏症は、ビタミンB12の摂取や吸収が不足することで引き起こされる疾患で、この欠乏状態は、特に神経系に影響を及ぼし、多様な症状を引き起こします。緊張感、不安感などの精神的症状が類似していますが、ビタミンB12欠乏症は栄養素の不足が原因であり、パニック障害とは原因が異なります。
パニック障害を理解することは、適切な治療を受ける第一歩です。特徴を知ることで、他の疾患との違いを明確にできます。医療機関での診断・治療を受けることは、日常生活における恐怖や不安を克服する手助けとなります。どんな小さな一歩でも、治療の旅を始めることが大切です。
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