パニック障害の人に言ってはいけない言葉【接し方のポイント】

もくじ

はじめに:言葉の力とは

人と人とのコミュニケーションにおいて、言葉は単に情報を伝えるだけでなく、相手の心に感情や反応を引き起こします。特にパニック障害を持つ人々は、言葉を通じての感じ方が増幅されやすいことがあります。

しかし、私たちが日常的に使っている言葉やフレーズが、意図せずとも相手の心にストレスや不安を与えてしまうことがあるのも事実です。本記事では、そのようなNGワードを避けるための知識や、安心感を与えるコミュニケーションのコツについてお伝えします。

パニック障害者が経験する認知の偏り

パニック障害を持つ方々は、時として独特の認知の偏りを経験することがあります。この認知の偏りは、自分が経験する事象についての評価や判断が、事実や実際の状況と異なる方向に偏って捉えてしまうことを指します。

以下に、パニック障害を持つ方々が特に経験しやすい認知の偏りを挙げます。

  • 過度な自己監視:体の細かな変化や感覚に過度に注目し、それを病的な状態として過大評価すること。
  • 過度な危険評価:一般的な状況や事象を、自分にとっての脅威や危険として認識しやすくなること。
  • 悲観的な未来予測:悪化する症状や再びパニック発作が起こることを強く予測・恐れること。
  • 極端な思考:「全てがうまくいかない」「私は常に失敗する」など、絶対的な言葉を使った思考に陥ること。

これらの認知の偏りは、パニック障害の症状を増幅させる要因ともなり得ます。たとえば、過度な自己監視により、一時的な体の変化を病的な状態として捉え、それがパニック発作の予兆と誤解することがあるのです。

まず知っておきたい「NGワード」リスト

パニック障害の患者さんとのコミュニケーションに際しては、無意識のうちに不安を増幅させてしまうような言葉を避けることが大切です。以下は、特に避けたい「NGワード」になります。

  1. 「なんでそんな不安になるの?」
    • 症状の原因や背景を理解せずに、疑問を呈するのは避けるべきです。これにより、相手は孤立や理解されていないと感じることが考えられます。
  2. 「大げさ」
    • 「大げさ」と言うことは、相手の体験や感情が過度であるか、事実ではないというように受け取られかねません。これは、相手の症状や体験を否定するものとして感じられます。
  3. 「普通にしてればいいのに」
    • 「普通」という言葉は、一般的な基準や期待に従わないことを批判するニュアンスを持つことがあります。これは、パニック障害の方々にとって、症状をコントロールするのが難しいことを無視していると感じられる可能性があります。
  4. 「他の人は大丈夫なのに」
    • 他者との比較を強制するものとして感じられる可能性があります。一般的な基準に合わせることの圧力を感じ、自己否定感を強める可能性があります。
  5. 「弱いんじゃない?」
    • 相手が弱い、またはその症状が「弱さ」の結果であると示唆している可能性があります。これは、自身の体験や症状が他者によって評価されていると感じられ、自己評価を低くする可能性があります。
  6. 「もっと努力すればいいのに」
    • パニック障害や他の心の健康上の問題が努力の欠如によるものであるという誤解を生む可能性があります。このような発言は、当事者に不要な罪悪感や自己非難の感情を引き起こす可能性があります。パニック障害や他の心の問題は、単純な努力の問題ではありません。
  7. 「他の人たちはもっと大変な状況でも乗り越えている」
    • 他者との比較を強制し、相手の症状や体験を無視または軽視するものとして受け取られる可能性があります。すべての人が異なる環境や背景を持っており、一人ひとりの経験や感じる症状は独特であるため、他者との比較は不適切です。このような比較は、自分の症状や感じている苦しみを無価値と感じさせる恐れがあります。
  8. 「気にするな。気を散らせば大丈夫」
    • パニック障害の症状やその他の心の問題を単純化しており、当事者の現在の感情や経験を認識していないと感じられる可能性があります。症状の対処や緩和には個別のアプローチが必要であり、すべての人に「気を散らす」ことが効果的であるわけではありません。

このように、パニック障害の患者さんに対しては、否定的な言葉を避け、その人の気持ちや状況を理解しようとする言葉を選ぶことが大切です。つまり、患者さんの気持ちを認め、受け入れる姿勢を示すことが大事になります。

安心感を与えるアプローチや具体的なフレーズ

パニック障害を抱える方に対して、安心感を提供することは非常に重要です。そのための適切なアプローチやフレーズを使うことで、彼らの不安や恐怖を和らげ、信頼関係を築く手助けとなります

  1. 共感を示す: まず最初に、彼らの気持ちや経験を理解しようとする姿勢を持つことが大切です。
    • フレーズ例:「それは大変でしたね」 「その気持ち、とても理解できます」
  2. 否定や評価を避ける: パニック障害の症状や感じることに対する否定や評価は避けるよう心掛けましょう。
    • フレーズ例:「それは誰にでも起こるかもしれません」「それは当然の気持ちだと思います」
  3. 安全性を確認する: 状況が安全であることを伝え、実際の安全を確保する努力をします。
    • フレーズ例: 「ここは安全な場所です」「私が隣にいます」
  4. その人のペースを尊重する: 強制や急かすことなく、その人のペースや感じることを尊重します。
    • フレーズ例:「無理せず、自分のペースで大丈夫です」「いつでもサポートしますので、気軽に話し掛けて下さい」

パニック障害の方とのコミュニケーションにおいて、心の中の安全感を提供することは極めて重要です。ここで示しているフレーズやアプローチは、患者さんとの間に信頼関係を築く上で非常に有効です。特に、その人のペースを尊重することは、治療の進行や関係性の構築において鍵となる要素です。

パニック発作時のコミュニケーションのコツ

パニック発作は、患者さんにとって非常に恐ろしい経験となります。そのため、発作時のサポートはデリケートかつ適切なアプローチが求められます。以下は、パニック発作時に取るべきコミュニケーションのポイントです。

  1. 落ち着いた態度で接する:あなたの冷静な態度が、パニック障害者の安心感を助けることがあります。慌てず、落ち着いた態度で接してください。
  2. 安全な場所へ移動:できるだけ人目の少ない、静かな場所へ誘導すると良いです。
  3. 短く明確な言葉を使う:「大丈夫」「ここにいます」など、簡潔で安心感を与える言葉を選んでください。
  4. 聞く姿勢を保つ:発作中の患者は、自身の気持ちや不安を伝えたい場合があります。その場合、耳を傾けてあげることが大切です。
  5. 強制的な行動は避ける:呼吸法などのリラックスの手段を勧めるのは良いですが、強制的に実行させることは避けてください。
  6. 発作がおさまった後のフォローアップ:発作がおさまった後も、その人の気持ちを尊重し、必要ならばサポートを続けてください。

パニック発作時のコミュニケーションは、その人の状態や感じていることを尊重しながら、適切なサポートを提供することが大切です。

パニック発作の特徴について下記の記事で紹介しております。ぜひ、ご一読してみて下さい。

投薬療法を受けている患者さんとのコミュニケーションのコツ

投薬療法は、パニック障害の治療として選択されることが多いです。薬物を使用することで、日常生活をより快適に過ごす助けとなりますが、その背景や効果、副作用などについて理解し、適切にコミュニケーションをとることが必要です。

  1. 薬への偏見を持たない:薬物療法に頼ることを「弱さ」とみなしたり、無駄だとする先入観は避けましょう。それぞれの患者さんには、薬物療法を選択する独自の理由があります。
  2. 薬の効果や副作用について無理なアドバイスを避ける:専門家でない限り、薬の効果や副作用に関するアドバイスや提案は避けるべきです。患者さんが体験する症状や感じることに対し、共感的に耳を傾けることが大切です。
  3. 患者の感じる変化や症状に耳を傾ける:薬物の効果や体験は個人差があります。患者さんの話を注意深く聞き、感じる変化や症状を理解する努力をしましょう。
  4. 治療の選択を尊重する:薬物療法を選択することは、患者さん自身の治療に対する決断です。その選択を尊重し、サポートする姿勢を持ちましょう。
  5. 薬物に関する情報の共有を促す:不安や疑問を感じている場合、医師や薬剤師との相談を促すことが有効です。適切な情報提供が患者さんの不安を和らげることがあります。

投薬療法の選択は、患者さんの生活の質を向上させるためのものです。その選択や治療結果に対する評価や判断を避け、患者さんの状態や感じることを理解し、サポートする姿勢が重要になります。

あなたの周りの人をサポートするための心得(ケーススタディ)

パニック障害を持つ人のサポートは、日常生活の中での細やかな気配りや理解が求められます。以下は具体的なケーススタディをもとに、周囲の人がどのようにサポートすることができるか、その心得を示します。

ケーススタディ1

ケーススタディ1(同僚としてのサポート)
山田さん(28歳・男性)は、最近職場でのプレゼンテーションを前に、突然の動悸や息苦しさを感じ、パニック障害と診断されました。あなたが、山田さんの同僚だった場合を想定してみましょう。

1. 過度な同情は避け、普段通りの態度で接する

突然の発症と診断により山田さんも驚いていることでしょう。しかし、過度な同情や気を使われることが逆にプレッシャーになることもあるため、普段通りの態度で接することが大切です。

2. 気づいた変化やサインに敏感に

もし山田さんが動悸や息苦しさを感じ始めたとき、そのサインに気づくことができれば、彼を安全な場所や落ち着ける環境へ誘導することが可能となります。彼から症状について共有されていれば、特に気をつけるようにしましょう。

3. プレゼンテーションや仕事の調整を提案

プレゼンテーションや特定のタスクを実施する上で症状が発現しやすい場合、その業務内容の見直しや調整を検討することが考えられます。代わりに他の業務を担当させる、またはプレゼンテーションの形式を変更するなどの対応が必要です。

また、本人が仕事の調整について言いづらそうな場合は、上司やチームリーダーに状況を伝え、仕事の調整を行うことも考慮してください。

4. 必要な情報やリソースの共有

職場でのサポートシステムやカウンセリング、産業医面談、休暇制度など、役立つ情報を共有し、山田さんが必要なサポートを受けられるよう助けることが重要です。

5. 一緒に休憩を取る

仕事中に短い休憩をとることで、ストレスや緊張を和らげることができます。時折、山田さんを誘って、一緒に休憩を取るよう心がけましょう。

6. 症状が出た際のサポート

もし山田さんがパニックの症状を示した際には、落ち着いて声をかけ、安心できる環境を作ってあげることが大切です。職場でのパニック発作が出た場合のサポート方法について事前に話し合っておくことも大事です。

職場の環境やプレッシャーは、パニック障害の症状を引き起こす一因となることがあります。同僚としてのサポートは、山田さんが安心して働ける環境を作る上で非常に役立ちます。また、具体的なサポートや調整の提案は、彼が自分の状態を受け入れ、次のステップに進む手助けとなります。


ケーススタディ2

ケーススタディ2(友人としてのサポート)
佐々木さん(35歳・女性)は、子育て中のママで、公共の場所での突然のパニック発作に悩んでいます。
あなたが、佐々木さんの友人だった場合を想定してみましょう。

1. 理解と受け入れの気持ちを持つ

パニック障害の症状は外見からは分かりにくいものです。ですので、佐々木さんの話をしっかりと聞き、その気持ちや不安を理解することが最初のステップです。無理にアドバイスをするのではなく、ただそばにいることを伝えるだけでも彼女には心強いでしょう。

2. 一緒に外出する際のサポート

公共の場所での突然のパニック発作が不安な場合、佐々木さんと一緒に外出する際には、彼女の状態を気にかけることが大切です。発作のサインを事前に共有してもらい、症状が出そうなときは、一緒に安全な場所へ移動するなどのサポートをしましょう。

3. 子供の面倒を見る手伝い

発作のリスクがある場面や、佐々木さんが治療などで忙しいときは、可能な範囲で子供の面倒を見るなどのサポートを提案することで、彼女の心の負担を軽減できます。

4. 感情の共有

時には、佐々木さんが感じる不安や恐れについて語りたいと思うこともあるでしょう。そのようなときには、真摯に話を聞き、感情を共有することで彼女の心のサポートとなります。

彼女自身の気持ちや状態を尊重しつつ行うことが重要です。また、過度な同情よりも、平常心を保ちながらのサポートが、彼女にとっても安心感をもたらします。友人としてのサポートは、専門的な治療とは異なりますが、その存在自体が非常に大きな助けとなることを忘れないでください。


ケーススタディ3

ケーススタディ3(家族としてのサポート)
高橋さん(38歳・男性)は、最近仕事のストレスや日常生活のプレッシャーから、外出時や突然の状況変化で動悸や息苦しさを感じるようになり、医師からパニック障害と診断されました。あなたが、高橋さんのご家族だった場合を想定してみましょう。

1. 診断を知った時の反応を控えめに

突然の診断に、高橋さんは驚きや不安を感じているでしょう。過度な反応や同情は避け、冷静に受け止めることが大切です。共に乗り越えていく決意を伝えましょう。

2. 日常生活の中でのサポート

高橋さんが外出時や突然の状況変化に不安を感じる場合、できるだけ彼のペースに合わせるよう努めましょう。また、無理に外出を促すのではなく、家の中でのリラックスタイムを増やすことも考慮してください。

また、感じていることや考えていることを互いに共有することで、理解し合うことができます。定期的に時間を作り、話し合いの場を持つよう努めましょう。

3. 適切な治療やサポートの受け入れ

高橋さんが受ける治療やカウンセリングをサポートし、必要に応じて伴っていくことで、彼の安心感を増やします。治療やカウンセリングに関する情報を共有し合うことも大切です。

4. 自身の感情管理

高橋さんをサポートする中で、あなた自身もストレスや疲れを感じることがあります。自身の感情や体調を大切にし、必要ならばサポートを受ける場所を探すことも忘れずにいて下さい。

家族がパニック障害になった場合、その状態を受け入れることは難しい場合があります。しかし、高橋さんの治療やリカバリーには、家族としての理解やサポートが非常に大切です。共に向き合い、情報を共有し合いながら、治療の過程をサポートしていくことで、良好な家族関係を維持できるでしょう。

まとめ:より良いコミュニケーションを目指して

パニック障害を持つ方とのコミュニケーションは、細やかな気配りや理解が求められます。この記事を通して、そのための基本的な知識や具体的なアドバイス、ケーススタディを紹介しました。

最後に、パニック障害を持つ方とのコミュニケーションは、理解と共感の心をもって取り組むことが最も大切です。これからも、患者さんやその周囲の方々のために、より良いコミュニケーションを目指して頂けると幸いです。

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この記事を書いた人

Relact編集長:大野(おおの)
大学では臨床心理学を専攻し、不安症について研究を行なう。

「Relact(リラクト)」はパニック障害や不安を抱える人々に対し、ITを活用したサポートを行うことを目的としたプロジェクトです。

私たちが目指すのは、正しい情報提供とサポートを通じて、全ての患者さんが自由で安心な日常を取り戻せるようになることです。

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